先生卒業式告辞(廣池千英先生、昭和34年、『道を悟る』105頁〜110頁)
| 卒業式告辞(廣池千英先生、昭和34年、『道を悟る』105頁〜110頁) 諸君たちはこういう際に卒業するのであります。この日本の将来は、日本の運命は、諸君たちの双肩にかかっているといって絶対にあやまちがないと、私は確信しているのであります。確かに日本人として生きがいのある時代でありますから、そういうときに諸君たちが卒業するということは、非常に喜びに堪えないのであります。 しかし世の中というものは甘いものではありません。在学中親から仕送りをしてもらって生活している時とは違っております。世間に出まするというと、世聞は非常に冷たいものであります。冷厳であります。その中に諸君たちは出ていくのでありまするから、平常蓄えたところの実力と、そうして品格と、よほど強い意志とをもってしても、なおかつ、なかなかむずかしいのではないかと、私は考えております。またそいうふうに考えることが至当だと思っております。従いまして、諸君たちは非常に苦労すると思います。しかし、鉄は鍛えるべき時に鍛えなければものになりません。 従って、この苦しい苦難の中にとびこんで、そうしてうんと鍛えられて、うんと苦労していくということが、諸君たちの将来のために非常に大きな結果をもたらすものであると、、私は確信を抱いております。一つ諸君たちはうんと苦労して、うんとたたかれて、そして心身ともに鍛えられまして、他日の大成を期していただきたいと思います。 そうして、もしも困ったならば、そのときこそは学園の方へとんできたらようございます。 いつでも喜んで相談相手になります。毎年通り、同じような餞(はなむけ)ですが 諸君達に餞の言葉をおくりたいと思います。 まず第一が、一層至誠慈悲の精神を涵養したまえ、ということであります。そうしで世間の人の、他人のいやがる仕事、人のしたがらない仕事を進んでやっていくのであります。人のまねばかりやっているようなものは大した人間ではありません。そんな人間は生きていたって死んでいたってかわりはないのであります。日本は人口が多いのだから酔生夢死の人間は早く死んでしまつた方がいいと私は思っております。やる以上は、なにものか人生に対しまして諸君たちの足跡を残さなけれぱ意味がありません。そのためにはまず第一前提において、一層至誠慈悲の精神を涵養していくことが大切であります。そうして、人のしたがらない仕事をみずから進んですることが、諸君たちの他日の大成を期しまする礎になってまいります。 それから第二番目には感謝報恩の誠を捧げたまえということであります。お互いの一生のうちにはいろんな恩人をもっております。神の恩とか、国家生活の恩、家庭生活の恩、あるいは精神生活の恩、こういう恩人に対しまして報恩の誠を捧げてこそ、初めて入間は独立自由入ということがいえます。そうでないものはみんな借金を背負っているのであります。人はえらそうな顔をして町を歩いておりますが、大多数のものはみんな惜金を背負っている人聞であります。独立自由入としての人間は、借金を払い戻して、すべての恩人に対して感謝報恩の誠を捧げた人間だけであります。 これが真の自由人であります。そういうふうに考えることが肝心であります。世聞の人は大概自分の欲望に汲々としております。であるが故に、こういうところの精神を少しでも持っておる人間はすぐに多勢の人から信頼を受け、尊敬を受けてまいります。必ず安心して、そうして感謝報恩の誠を捧げるのだという信念を心の中にたたぎ込んでおくことが、諸君たちのために非常に必要だと私は信じております。 第三番目には、国際的な日本人となりたまえ、ということであります。新しい日本の青年は悠久の日本、悠久の大和民族、悠久の入生というものを信じまして、そうして広く世界に知識を求めて、高い、広い、深い視野の上にすべての問題を見ていくということにならなくてはだめであります。そうしませんと日本の将来は独善的、小児病的狂信国家となってしまうか、そうでなければ植民地的な卑屈な頽廃的国家ということに堕してしまいます。すべからく諸君たちは、大和魂をもったところの国際人となっていただきたいのであります。 そのつぎには、母校を誇りたまえ、ということであります。いつも繰り返しますが、そもそも教育というものは仁愛の精神を人心に植えつける人間最高の理想だと、私はかように信じておりまするものであります。この仁愛の精神の上に現代の科学を探求し、真理を窮め、そうして、これを実際の社会に運用していくのでなければなりません。そこで初めて学問もひかり、学問の生命というものが生まれてくるのであります。 本校は、校舎はまことに粗末であります。学生や生徒の数は非常に少ないのであります。 このように非常に小さいけれども、仁愛の精神を植えつけるという教育の理想にもえまして、今月まで二十数年の歳月を費やしてまいりましたものであります。 諸君、一つ自分というものを十分信じ、そうして、母校を誇って、祖国を愛していかなけれぱなりません。そういう精神をもっておってこそ、初めて、低い、やさしい、謙虚な心持ちというものが生まれてまいりまするものであります。母校も誇らず、祖国も愛さないような人間をだれが信頼し、尊敬するでしょうか。 最後に、諸君たちは日本一の門番となりたまえということであります。仕事はなんだってかまいません。おでん屋をしようと車引きをしようと、職業としてはなんでもかまいません。職業のいかんではなくて、その職業に対しまするところの根本的な精神と、そうしてその職業に対しましては第一人者になるという気慨とが一番重要な問題であります。従ってなんでもかまわないから、その道においては日本一だというようになることを、私は諸君に期待いたします。 さらにおしまいに、女性の諸君でありますが、女性諸君は世界で最もすぐれておりまするところの日本女性であります。この女性といたしましては、自分の天職を知り、そうしてやさしい、気品の高いところの生活をして、自分の天職を、女性としての天職を全うしていただきたいと思います。そうして世界第一の日の婦人だということを、すべての人類に示していただきたい。私はそれを願い、そしLて皆さん方の幸福を心から祈っておりまするものであります。 最後に重ねて申し上げまするが、諸君、いつでも遠大雄渾な理想を常に持っていただきたい。そうして大いに苦労したまえ。そうして一歩一歩堅実な歩みを踏んでまいりたまえ。ベストを尽くして、それでもって困ったらいつでも私のところへ飛んでやってきたまえ。 |