平成14年1月1日『まなびとぴあ』第61号掲載
モラロジー専攻塾塾頭/松浦勝次郎

(平成14年1月1日『まなびとぴあ』第61号掲載
 モラロジー専攻塾塾頭/松浦勝次郎)

「若いうちに大いに苦労してきたまえ」

大小の困難に出会ったとき、心が弱くなって挫折の方向へ進むか、あるいは心に勇気がわいて新しい道を開く方向へ進めるかは、まったく紙一重の違いで決まります。そういう大切なときに、私たちは、恩ある方々の思い、願い、教えによって守られています。
私は大学卒業後、恩師の先生方のお力添えにより、母校である麗澤高等学校の教員となりましたが、その後も、さらに大学院へ進んで専門の物理学の研究を続けたい、という希望をずっと心に抱いていました。
もう三十五年も以前のことですが、麗澤高校の教員となって三年目に、その希望が留学という形で実現することとなりました.
出発の数日前に、当時、モラロジー研究所と廣池学園のすべての貫任ある立場を担っておられ、麗澤高校の校長でもあった廣池千英先生に、出発のご報告とご挨拶をすることができました。いよいよその場を辞する時となり、振り向きかけた私に少し大きな声で「若いうちに大いに苦労してきたまえ」とのお言葉をかけてくださいました.
その数年前に、私はすでに父を失っており、私の留学の目的や留学後の計画などについて、だれよりも先生がいちばんよく理解してくださっていましたので、このときのお言葉には、激励だけでなく、心配、同情、期待、信頼なども感じられ、深い親心が伝わってきて、思わず涙がこぼれそうになりました。
その後、これまでに、さまざまなことがありましたが、苦難と思えるようなことに出会ったときには、必ずこのときの千英先生のお顔とお言葉が心に浮かび、「先生はこのことをおっしゃったのだ」と気づくことができて、いつも勇気と元気をいただき救われました。
先生は、私がこのお言葉をいただいた翌年に他界されました。このお言葉によって、私は、今もありありとした実感をもって先生のお心とつながることができ、また苦労から逃げそうになる弱い心を正していただいています。