|
元禄時代に起源を持つ富山県八尾町の「おわら風の盆」は、毎年九月一日、二日、三日に行われます。
これは二百十日の風の厄日に風神鎮魂を願う祭で、十一の旧町から年輩の地方[じかた](唄・三味線・囃子・胡弓・太鼓)と若い踊り手が十数人のグループを組んで参加し、それぞれの町で流し、小学校に常設されている演舞場で競演し、またそれぞれの町に戻ってきて夜中まで歌い、踊るのです。
人口三千人のこの町に、三日間で、全国からおよそ三十万人が来ます。
今年の風の盆に誘われて始めて訪ねた私も、さわやかで深い感動を味わうことが出来ました。
江戸情趣を残す旧町の坂の道にぼんぼりが灯され、三味線と太鼓、胡弓が奏でる独特の音曲、おわらの歌声とともに、編み笠をかぶった男女の踊り手たちが目の前をゆっくりと進んでいきます。
男は股引と法被[ももひきとはっぴ]、女は艶やかな浴衣姿。
男踊りは直線的で力強く、女踊りゆるやかで、しなやかで、優美です。
踊りは稲刈りなどの農作業や蛍とりの所作を表しているといいますが、指先の動きまで神経が行き届いていて、盆踊りというより、高度で優雅な舞を見るようです。
踊り手は、昔は二十歳まで、今は二十五歳までの独身男女とのことですが、実際は高校生や大学生の世代が中心になっているようです。
踊り手の顔は編み笠に隠れて見えませんが、時折ちらちらとのぞくその顔はあどけなくも真剣です。
この行事は長年続いているので、若い踊り手がいなくなってしまうのではないかと心配になりますが、就職や進学で東京や大阪に出ている若者たちが必ず帰省して参加するので、その心配は無用のようです。
幼い子どもたちがいっしょになって躍る姿には、思わずほほえみがこぼれます。
将来の踊り手である彼らもまた一生懸命で、見る者を魅了します。
眼前に繰り広げられる情景は幻想的ですが、三百年も続くこの貴重な伝統文化を支え、継承して行くことは、並大抵なことではないと思います。
大人たちは心と技を次世代に伝えるべく真剣に努力し、若者たちも一生懸命に学んで体得しようとしているに違いありません。その姿を幼い子どもたちが見ていて、胸に刻んでいるのです。祭を中心に老若男女が心を一つにしてきた日本の良きコミュニティがここには残っている、と強く実感しました。
地域社会の教育力が問題になって久しいのですが、ここは町全体がすごい教育力を持った一つの学校であって、そこで行われているのは累代教育そのものです。
この町には非行少年や非行少年や引きこもりなどは生まれる余地がないという思いを胸に、感動の地をあとにしました。
機会があれば、またぜひ訪ねてみたいと思っています。
本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(11月号)
誌に掲載 されている廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。
|