| うれしいことがありました。郷里の親に毎日ハガキを書き続けた 麗澤高等学校の女子寮の生徒三人が、四月の郵政記念日に、地 元の柏郵便局から今年も表彰されたのです。 五年ほど前の麗高の卒業式のとき、招待者のお一人だった郵便 局長さんに、「わが校には毎日親にハガキを書いている生徒がいる んですよ」とお話ししますと、そんな生徒がいるのかとたいへん驚か れ、それから表彰が始まりました。郵便事業への貢献による功労賞 ということで、今回で五回目になります。 親にハガキを書くことは学校が強制したものではなく、学校創立 以来、先輩から後輩へと自然に受け継がれてきた良き伝統です。 私が全寮制(現在は一部寮制)だった麗高の生徒時代、ハガキは一 枚五円でした。「五円の親孝行」と称して、女子は毎日のように、男子 は女子ほどではないにしろ、親によくハガキを書きました。書く内容 はたわいのないことが多く、「朝起きて、三回食事をして、寝ました」と いうようなこともありました。それでも親にとってはうれしいものだと、 人の子の親になって気づきました。 家を離れて寮生活を送る子のことを、親は片時も忘れることなく 心にかけ、今朝も元気に起きただろうか、しっかり授業を受けてい るだろうか、友だちと仲よくしているだろうか、ケガや病気をしていな いだろうかと、絶えず心配しています。その心配を一枚のハガキが 安心に変えてくれます。 娘さんから毎日来るハガキを大切にとっておいて、娘さんが結婚 するときにそのハガキを桐の箱に入れて持たせたお母さんもいまし た。娘さんからもらった宝物を、娘さんという宝物がお嫁にいくとき、 嫁入り道具の一つとして持たせたのです。母親の心をしっかり受け とめて結婚した娘さんも、すばらしいお母さんになったことでしょう。 私は、親孝行は人間生活の基本だと思います。それは難しいこと ではなく、「親心」に応え、安心を与えることです。ハガキ一枚で親は 喜び、安心するのですから、ハガキを出すことは優れた親孝行の実 行につながっていきます。 郵便局に表彰されたことは生徒たちの名誉です。一方で、私たち にとってはあたりまえのことが表彰される現代の社会に憂いを覚え ます。大人にも、子どもにも、親孝行の観念がなくなり、そのため親 子の絆が弱くなって、さまざまな不幸が起きているのではないでしょ うか。ハガキ一枚で親孝行ができ、親子の絆を深めることができる のです。「五十円の親孝行」の価値を、あらためて多くの人に知って もらいたいと思います。 本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(7月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。 |
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