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この七月、猛暑の関東とは違って別天地の函館を訪ね、旧知の方々、若い
本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(9月号)誌に掲載
されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。方々と交流を深めました。 その折に、函館の名所旧跡を数か所巡りました。まず、百年以上も前に開 かれたトラピスチヌ修道院。次いで、榎本武揚(えもとたけあき)らの旧幕府脱 走軍が明治元年に占拠、翌年五月の市街戦で新政府軍に制圧され、開城し た五稜郭(ごりょうかく)。元新選組副長・土方歳三(ひじかたとしぞう)が戦死し たこの箱館戦争終結後に、明治の新時代が始まったのです。市立函館博物 館では、ペリー来航百五十周年の特別展示がなされていて、函館が日本の 近代化の中で重要な位置を占めていたことが実感できました。 とりわけ感激したのは、重要文化財である旧函館区公会堂を訪ねたことです。 この建物は明治四十三年に竣工したルネサンス風の美しい木造建築で、高台 にあるため数度の大火を免れ、当時の姿をそのまま残しています。実は、その 二階の大広問で、大正六年九月十九日、法学博士・廣池千九郎(モラロジーの 創建者)が、六百余名の聴衆を前に、三時間、熱誠を込めて講演したのです。 大広間に足を踏み入れると、五十一歳の千九郎の姿が彷彿として脳裏に浮か んできました。 この講演の抄録記事が大正六年九月二十一日から二十四日の函館毎日新 聞に掲載され、地元のO氏がその記事のコピーを準備してくれました。それを 読むと、千九郎が函館市民に語った内容が鮮明によみがえってきます。たとえ ば、個人、道徳、国家について、次のように述べています。 「国家成立前の人間は孤立し、夫婦もなく親子もなくバラバラだった。孤立的で あるから、喧嘩が絶えず、弱肉強食であった。その後、人知が発達してくるに つれ、襲敵を防ぐため味方をつくらねばならぬとの考えから妻を持つことを知 った。これが本当の味方で、それが自己の幸福のためだから大切にする。 そこに初めて犠牲の観念すなわち道徳心が起こるようになった。 夫婦の間に子ができて、家族と家族が喧嘩するようになったが、今度はこれ が悪いと感じて、そこに村落的共同体ができるようになった。すると、共同体と 共同体が喧嘩し、これではならぬと感じて連合したのが国家である。今日にな ると、国家と国家と対抗し喧嘩することになった。もし国家がなかったら我々に 幸福がないゆえに,、国家と国家と統一されて仲良くするようにならないと安心 ができない」 家庭も、社会も、国家も、道徳を基礎にしてこそ形成される。国家は人間生活 の基盤であるから、互敬の精神で友好的な関係を築かなければならない―― と理解しました。遠い歴史の町で私どもの創立者の肉声に触れたようで、大い に啓発されて帰ってきました。 |
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