究極の安全保障
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
 美術史研究の第一人者・田中英道先生の『日本美術傑作の見方・感じ方』(PHP新書)
を興味深く読みました。
それによると先年、イタリアで、「世界で最も有名な絵画は?」というアンケートが行われ
たそうです。すると、首位を争った絵が二点ありました。一つはレオナルド・ダ・ヴィンチ
の「モナ・リザ」。そしてもう一つは、ミケランジェロやラファエロの絵ではなく、葛飾北斎
の「富嶽三十六景・神奈川沖浪裏」だったそうです。
「海外での北斎の評価は日本人の認識をはるかに上回っています」と田中先生は綴ら
れています。

また、先生は、「ある調査によると、世界的な美術や文化遺産を保有する国々のうち
フランスには年間七千万人、イタリアには五千万人(中略)の旅行客が海外から訪れて
います。ところが、日本を訪れる外国人は年間四百万人程度。日本美術の価値や量か
らいって、四千万人は来てもおかしくないと思うのですが、実際はその十分の一しか来
ていません」と述べられています。

年間七千万人だと十年間で七億人、五千万人だと五億人です。フランスやイタリアに
は、過去十年間で全人類の十分の一前後の人が訪れていることになります。
これは実にすごいことです。経済効果は言うに及びませんが、芸術の都パリ、美術の宝
庫ローマを攻撃するなどという発想は、世界中のどんな人の頭にも浮かぶことはない
でしょう。

 かたや日本を訪れる外国人は年間四百万人。十年で四千万人は、フランスやイタリア
の一年分にも及びません。そして、海外に行く日本人は年間千五百万人。どこかおかし
いのではないでしょうか。

 日本人の目は外にばかり向いていて、足もとに豊かに存在する価値に気がついてい
ないようです。自己否定的な歴史観が、日本民族の優れた芸術性を認識する目を曇ら
せてきたのです。東京にも京都にも奈良にも、いや、日本のどのような地方にも、パリや
ローマにひけをとらない芸術作品があります。その事実を日本人自身がまずしっかりと認
識することが必要です。

 「文化は金の無駄遣い」でやってきた日本ですが、グローバル時代を迎えた今、大き
な方向転換を求められています。
これからはただ経済の拡大をめざすのではなく、文化や芸術の面でも第一級の国家に
していかなければなりません。
そのために、私は、観光省とでもいうべき新しい省を設けてはどうかと考えます。

「観光」とは「光」を「観る」ことです。芸術国家・日本という光り輝く国家イメージをつくり、
自信を持って世界にアピールし、光を観に来る日本ファンを増やしていけば、国は安全
裡に繁栄していくでしょう。


本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(10月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。

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