教科書採択に思う』
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
 平成十七年の今年は、四年に一度の「義務教育諸学校」用の教科書採択
の年です。
採択の権限と貢任は、公立学校で使用される教科書については、その学
校を設置する市町村や都道府県の教育委員会にあります。教育委員は知
事や市町村長が選びます。
文部科学省の検定を通った教科書が公表されるのはこの四月。全国の教
科書センターで六月から七月にかけて一定期間展示され、八月末日までに
教育委員が採択します。

さて、私は常々、心のエンジンともいうべき魂を育てるものは歴史教育で
あると考えています。ですから、中学校でどのような歴史教科書を使うかは、
たいへん重要なことです。
ところが、教科書検定基準の一項目として昭和五十七年にいわゆる「近隣
諸国条項」が盛り込まれて以来、日本の歴史教科書はおしなべておかしく
なったのではないかと思います。

たとえば、天下統一を果たした豊臣秀吉の偉業を評価しないで、秀吉軍
を破った朝鮮の李舜臣を大きく扱い、近代日本の礎を築いた初代総理大
臣・伊藤博文の努力と功績に目を向けないで、伊藤を暗殺し韓国の民族的
英雄となった安重根を高く評価するような書き方をしています。二宮尊徳、
東郷平八郎、昭和天皇をはじめ、日本の歴史に貢献した大切な人々を登場
させない教科書も少なくありません。そのうえ、侵略、虐殺、強制連行などと
いった、史実とは異なる一方的な記述が目立ちます。自虐的な記述ばかりで
は、いったいどこの国の教科書かと思います。これで、子どもたちに「我が国
の歴史に対する愛情を深め、国民としての自覚を育てる」(文部科学省・中学
校学習指導要領「歴史的分野」の「目標」の第一)ことができるでしょうか。
国を愛し、日本人しての誇りを持ち、先人に倣い困難に負けないで生きぬこ
うとする魂が育つでしょうか。日本嫌いの日本人が増えてしまわないでしょうか。

 そんな中で、『新しい歴史教科書』(扶桑社刊)が有志によって四年前に作
られました。この教科書は光と影のある歴史事実を見据えつつ、愛情と良識
と適切なバランス感覚をもって先人先輩たちの足跡を活写しています。
私どもの麗澤中学校、麗澤瑞浪中学校ではすでに使用し、大きな成果をあ
げています。

 しかし、残念ながら、前回の採択時にこの教科書を採択したのは、東京都
教育委員会と愛媛県教育委員会だけです。この教科書を使っている私立
中学校も全国で八校のみです。十六年度に歴史教科書を手にした中学生
はおよそ百二十六万人、そのうち『新しい歴史教科書』に触れたのは0.1
パーセントにも満たない千十人にすぎません。
私は、一校でも多くの公立中学校がこの教科書を使い、一人でも多くの中学
生にこの教科書で学んでもらいたいと思います。教育委員の皆さんの誠実な
努力に期待するとともに、お父さん、お母さん方にも関心を持ってもらい、必
要な声を出していただきたいと願っています。
背筋を立て、胸を張って生きる立派な日本人を育てるために。

本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(3月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。
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