| 先日、数年ぶりに台湾を訪ね、私どもの研究所顧間にご就任いただいた 孔徳成先生 (孔子第77代裔孫) にお礼のご挨拶をすることができました。 さらに今回、忘れがたいこは、李登輝(リトウキ)前総統に十年ぶりに再会でき たことです。研究所参与の白永傳(ハクエイデン)さんご夫妻のご案内で、台北 の北、風光明媚な淡水のオフィスをお訪ねすると、前総統はにこやかなお 顔で迎えてくださり、およそ一時間、親しくお話しすることができました。 前総統は、元々は農業経済学者ですが、学識と人格を蒋経国(ショウケイコク) 総統に認められ、副総統に抜擢されました。やがて総統に就任、1988年から 2000年まで国のりーダーとして活躍しました。台湾出身の初めての総統として、 台湾の民主化を進め、多大な功績を残しました。憲法を改正し、台湾史上初 の総統直接選挙も実現させました。人々は前総統を"台湾の救世主"と呼ん でいます。 「私は二十二歳まで日本人でした」と言われる前総統は、日本による台湾統 治時代に京都帝国大学で学び、新渡戸稲造、内村鑑三、西田幾多郎、鈴木 大拙など、明治の先達の思想に触れて、武士道、大和魂など、日本の伝統的 な精神を吸収しました。終戦は日本の陸軍少尉として名古屋で迎えました。 お兄さんも日本の軍人として戦死し、靖國神社に祀られています。 淡水のオフィスで、前総統は、九九年の台湾大震災時に日本国民がいち早く 援助の手を差し伸べてくれた、とお礼を言われました。ご自身は総統としてただ ちに軍隊を出動させ、救援活動を展開されたのです。そのとき、日本人学校が 被災し、窮状を訴えてきました。総統は「わかった」と言われ、すぐに代替地を 探すよう命を下し、学校はほどなく新築開校することができました。「わかったと いうことは、即実行することなのです」と言われたことに、たいへん感銘しました。 「『武士道』精神の根幹は『実践』にあります。そして、新渡戸稲造先生も、ち ゃんと『武士道の淵源』などの中で繰り返し『実践躬行』や『率先垂範』の大切さ を強調しており、このことは仏教においても、神道においても、儒教においても、 キリスト教においても、すべての人間社会の道徳的な規範が等しく求めている ことであり、まさに古今東西を通じて間違いのない人間としての真理なのです」 (李登輝著『「武士道」解題ノーブレス・オブリージュとは』〈小学館〉より) その真理を実行する前総統に、昨今の日本のリーダーに欠けているものを 見せられたような気がしました。 前総裁は、昨年暮れから正月にかけて来日されましたが、自由な旅行はで きませんでした。私は今回、招請状をお渡しして、桜の季節にぜひ来日され、 靖國神社にもお参りしていただきたいと申し上げ、その日がいつか来ることを 信じてお別れしました。 本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(4月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。 |
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