この三月、神戸東部新都心・HAT神戸の「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」を訪ねました。センター4階の「1.17シアター」
では、映像とジオラマ(模型)で、平成七年一月十七日未明の凄絶な 状況を再現していました。大音響とともに床が揺れ、目の前の大画面
には、ビルが倒壊し、高速道路が崩れ落ち、各地で火災が発生する 模様が次々と映し出されます。近代都市神戸が一瞬のうちに瓦礫と
化し、六千四百余名の尊い命が失われたあの大地震の、まさにその 現場にいるような臨場感を体験することができました。
その翌日、モラロジー研究所大阪出張所で開催された兵庫県モラ ロジー協議会主催の「阪神・淡路大震災ーあれから十年感謝の集い」
に出席しました。 この集いでは、オートバイや自転車で救援活動に奔走したお二人
の体験発表があり、その至誠の行動に感銘しました。また、神戸市立 狩場台児童館館長の鈴木かづ子先生の実践発表に、たいへん心を
打たれました。 鈴木先生は、当時、被害がひどかった灘区の小学校の教頭をされ
ていて、地震発生直後に学校に駆けつけました。そのときからの、た くさんの遺体を運び、たくさんのケガ人の世話をしたときの光景が、今
も毎晩、脳裏に浮かんできて、消えることがないといいます。「校門の前 の潰れた家に一人暮らしのお年寄りがいるはずだから、助けてください」
と消防士に頼んだが、消火活動が先だからと、やむをえずあきらめさせ られたこと、炎の中から子どもの声が聞こえてきても、どうしようもなかっ
たことなどを鈴木先生は切々と語られました。 先生はまた、校舎や運動場を避難所に提供し、四千人の被災者のお
世話を必死にされました。避難所となった体育館などの場面がテレビで よく放映され、どこも整然としているように見えましたが、実際の避難所
では、極限状況の中で平常心を失って、まったく想像もつかない言動 に走ってしまう人もいたようです。そんな中で、鈴木先生は、教育者とし
て、だれ一人えこひいきせず、公平に、親切に、一生懸命に尽くされま した。時に自信をなくし、自分の存在価値を疑うこともあったそうですが、
その心を支えてくれたのは「先生がそこに立っておられるだけで、皆さ んが励まされているんですよ」という若いボランティアの人の言葉だった
といいます。鈴木先生のお話に、困難なときほど自分中心の心を抑え、 互いに支え合い、励まし合うことがいかに大切かを学びました。
私たちは、不慮の出来事で、かけがえのない多くのものを失うことがあ りますが、悲しみの中からさらに大切なもの生かされている自覚、感謝の
心、助け合いの精神などを学び、常に前向きに生きていきたいと思うも のです。
本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(5月号)誌に掲載
されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。
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