| この秋、中学校の先生をしている麗澤大学卒業生のFさんから、 うれしい手紙が届きました。 要約すると今年の夏、同志六人で、約二百キロの文房具を携え、 ネパールの山岳部の公立学校二校と、チベット難民の学校二校 を訪間しました。 山岳部の学校は、ヒマラヤ山脈の裾野、標高二千四百メートル の高地にあり、舗装されていない道を二時問かけて歩いていきま した。学校では、枠だけの窓にぎつしり並んだ笑顔に迎えられ、 手作りの花の首飾りをかけてもらいました。教室へ行くと、床や壁 は赤土、屋根はトタンで、電気もなく、机もイスも不足していて、子 どもたちは身を寄せ合って座っていましたが、まっすぐ見つめてく る目は純粋そのものでした。日本でいう小学一年生から中学三年 生が同じ学校で勉強していて、始業時間は午前十時。子どもたち は家の農作業や家畜の世話をしてから学校に来ます。栄養状態 が悪く、低学年の子は日本人の幼児ぐらいの体形で、きょうだいの お古の制服か、だぼだぼの服を着て、裸足で山道を歩いてきます。 鉛筆を二本ずつ手渡していくと、手を合わせて受け取り、ほんとう にうれしそうな笑顔を見せ、鉛筆を握り締めて帰っていきました。 大きくなっても、村を出て進学や就職をするのはほんのひと握り。 しかし目標を持ち、学校に来られることを喜び、通学させてくれる親 や家族に感謝しています。キラキラ輝く瞳に一生懸命生きている」 と心の底から感じて、日本人が忘れかけている愛情、喜び、感謝、 一生懸命さが思い出され、教えられた気がしました。 チベット難民の学校は、夏休みでみな帰省中でしたが、家が遠く て帰れない中三の男子生徒と話すことができました。サッカー好き で、あどけない顔の彼の夢は「兵隊になること」。「親、家族、民族が 平和で安心して暮らせる社会をつくりたい。そのために役に立ちた い」と言う彼に、返す言葉もありませんでした。 自分たちはパスポートを持ち、国に守られ、自由に学び、職を選び、 外国へも行けますが、難民は自由に制限があり、夢があっても自由 に叶えることはできません。しかし、目をキラキラさせ、前を向いて 生きてきました。すでに頑張っている彼に「頑張れ」とは言えず、口 から出たのは「ありがとう」。勇気と力、直向きさを教えてくれてありが とうの「ありがとう」です。 私は、教師の枠を超えてボランティア活動に励むFさんの情熱に 頭が下がりました。 手紙の最後は、こう結ばれています。自分は無力で悲しくなるが、 小さな力でもたくさん集まれば大きな力になると考え、今回の旅で 知ったこと、学んだことを多くの人に、特に教え子たちに伝えたい、 「それが私のできることですから」と。 多感な中学生時代にFさんのような先生から学べる生徒は幸せです。 Fさんのような教育者が増えれば、日本の教育は再生するでしょう。 ネパール体験に教え子たちがどう反応したか、その成果が楽しみ です。 本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(12月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。 |
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