『IT時代を迎えて
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
明けまして、おめでとうございます。読者の皆様のますますの
ご健勝とご多幸をお祈り申し上げます。
さて、二十一世紀に入って六年、インターネットに代表される
IT (Information Technology情報技術)の進歩はめざましく、
今やITのない生活は考えられなくなりました。
ITの進歩に伴って、市場に新しいフロンティア(未開拓の分野)
が現れ、新しいビジネス・チャンスが生まれています。ITに強い
二十代、三十代の若者たちがインターネット・ビジネスの世界で
起業し、時代のヒーローとも言うべき人たちも出てきました。
若い世代の台頭は肯定的に受けとめるべきでしょう。
旧来の幕藩体制を崩し、日本を近代国家への軌道に乗せた
明治維新は、若い世代を中心に成し遂げられた社会改革です。
いつの世でも、社会を変える動きは若い世代から出てくるように
思います。
ただ、懸念するのは、ITを駆使して短期間で莫大な利益を生
み出し、M&A(企業の合併と買収)を繰り返して、プロ野球の球団
や巨大メディアまで手に入れようとしている若いヒーローたちの
心のあり方です。幕末の志士たちには、弱肉強食の国際環境の
中にあって、国を守り、世界に通用する国家にしていこうという大
義があり、自分を犠牲にしても日本をよくしていこうとする高い志
がありました。一方、IT時代のヒーローたちは、お金がすべて、
お金があればなんでもできると考え、お金集めと事業の拡大、
すなわち自分の野心や野望の実現に躍起になっているように見
えます。後進の若い人たちも、IT時代の成功者たちに強い憧れ
を抱いているようです。このままでいったら、日本はどうなってし
まうでしょう。自分の利益のみを求めてマネーゲームに熱中する、
利己主義者の多い国になってしまうのではないでしょうか。"利益
のほんの一部でも社会に還元しようとする人が現れたら……"と
願うのは、私一人でしょうか。
彼らを生んだのは、戦後の教育です。それは知育に偏り、感謝
や思いやり、あるいは公共のために献身しようとする道徳的な心
を育ててこなかったように思います。
知は徳と一体になってこそ真価を発揮するのです。
そこで私は、年頭に際し、IT時代の若い人たちに二つのことを
お願いしたいと思います。一つは、ITを開発した先人先輩方へ
の感謝を忘れないでほしい、ということです。感謝の心を持たず、
謙虚な気持ちもなく、利益を上げればいい、お金を儲ければい
いと、利己的な心でITを使っていては、やがて方向を誤ることに
なるでしょう。もう一つは、自分の利だけを求めるのではなく、社
会全体のことを思いやり、公共の福祉のために役立とうとする高
い志を培ってほしい、ということです。感謝と思いやりの心でITを
活用する、真のヒーローの出現を期待したいものです。


本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』2006(1月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。
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