『偉大な教育者
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
 過日、カトリック教会のヨゼフ・ピタウ大司教にお会いしました。
現在七十七歳の大司教が初めて日本に来られたのは1952年二十四歳のときです。日本語学校で勉強しながら各地を旅して、いちばん目に留まったものは学校だったといいます。どこでも学校は丘の上の見晴らしのよい所にあり、校舎も設備も運動場も整っていたとのことです。"戦後の復興があまり進んでいないのに、教育には非常に力を入れている。日本という国はえらい国だ。日本の将来は明るい"と思われたそうです。
 その後、中高一貰校で教鞭をとられました。このとき校長から、生徒一人ひとりの顔と名前、特徴、家庭の事情などを彼らに会う前に覚えるように言われ、受け持ちの2クラス、計90名の生徒全員のことを頭に刻んで、彼らが登校した最初の日から一人ひとりを名前で呼びました。以来、大司教は、人間を大切にする教育を一貫して実践されてきました。
 大学紛争の時代、上智大学の学長だった大司教は、全国の大学ではじめて機動隊を校内に入れ、学校の秩序を守りました。そのとき、何を書いてもいいというボードを学生に提供したそうですが、それでも壁に落書きをする学生がいて、彼に壁をきれいにするための経費を請求しました。
 彼も、彼の親も、大学は自由だから払わないというので、裁判に訴え、勝ちました。学びの場を保つためには、皆がルールを守らなければいけません。
そのことを毅然とした態度で教え示した大司教は、実に偉大な教育者です。
 祖国イタリアに帰られて二十数年、バチカン教育省事務次官などの要職を務め、定年で退職した一昨年、再び来日されたのは、日本をこよなく愛しているからです。日本の伝統文化を理解し、その象徴である皇室を敬愛する大司教は、1993年の夏、天皇・皇后両陛下がバチカンを訪問された際、当時の教皇ヨハネ・パウロニ世とお会いになったときのことをうれしそうに話されました。
天皇・皇后両陛下は教育に尽力してきたカトリック教会に感謝され、教皇は日本が平和のために働いてきたことに感謝されていたそうです。無私の心で人々に奉仕されるお三方が感謝し合われるその場に同席して、大司教は深い喜びを感じられたといいます。
 ヨハネ・パウロニ世は異宗教との対話を始められ、世界平和のために宗教が協力することを求められました。2002年1月にはイタリアのアッシジで、教皇出席のもと、世界の諸宗教の代表が集まって世界平和を祈る集いが開かれました。教皇の葬儀にはイスラム圏からも数多くの宗教者や政治家が参列しました。ヨハネ・パウロニ世と、その遺志を継ぐ現教皇ベネディクト十六世が希求する宗教間の対話は、緒についたばかりです。一日も早く和解と融和が実現するようにと祈らずにはいられません。

*編集担当注=
 平成18年4月1日発行のモラロジー 生涯学習情 報紙『まなびとぴあ』第112号にヨゼフ・ピタウ大司教と筆者の対談記事が掲載されています

本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』2006(4月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。
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