『(日の丸)の重み』
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
 第一回WBC(世界野球選手権大会)での「王ジャパン」の優勝は、日本中に大きな感動を与えました。準決勝、決勝と進むうちに老若男女が皆テレビの前で手に汗を握って声援を送り、「世界一が決定すると町には号外が出て、人々はそれに殺到して喜びを表しました。アメリカ、キューバといった世界の強豪、韓国のようなアジアの宿命のライバルに勝つことの難しさ、それを乗り越えてつかんだ世界一の座に日本中が沸きました。「王ジャパン」の勇姿に、日本人であることの喜びと誇りを久しぶりに感じた人も多かったと思います。
 今回の快挙はイチロー選手の活躍を抜きにしては語れません。べースボールの本場アメリカに乗り込み、数々の大記録を打ち立てても感情を表さないクールさを持ったイチロー選手が、喜怒哀楽をむき出しにして戦う姿に、多くの国民が驚いたことでしょう。オリンピック代表にも興味を示さないで野球に打ち込む姿は、「求道者」「孤高の天才」を思わせるものでした。アメリカに渡ってもその姿勢は変わらないように思えました。ところが、今回、みずから進んで日本代表に選ばれることを望んだ彼は、「日の丸」の入ったユニホームを着て、今まで見せたことのない少年のような笑顔で嬉々としてプレーに打ち込みました。
 世界の強豪たちがそれぞれの国の代表として国民の期待を背負い、国家の名誉をかけて戦う場で、イチロー選手はみごとに結果を出しました。その気迫は他の日本選手を引っ張り、王監督の下で世界一という快挙を達成しました。彼がこれまでに打ち立てた前人未踏の記録の数々は、あくまで彼個人の名誉でしたが、今回はかつてない大きな称賛となって返ってきました。「王ジャパン」が背負って戦った「日の丸」には、日本国民の願いというたいへんな「重み」があったのです。
「王ジャパン」の優勝は、大リーグとの間に越えがたい力の差があった時代を知る我々「ON(王・長嶋)世代」を喜ばせましたが、無気力、無関心と言われる若者たちが熱狂する姿も忘れられません。これが単なる野球人気の復活にとどまらず、日本社会全体の活性化、明るい未来へと続くことを願うのは私だけでしょうか。
日本の未来は若者にかかっています。現在六十万人とも八十万人とも言われる「二ート」(若年無業者)は、ますます増えているようですが、社会に参加し貢献しようとする機会を得ようとしないのは、本人にとっても社会全体にとっても実にもったいないことです。「平和憲法」と「教育基本法」が制定されて六十年、日本が生んできたのは「他人に迷惑をかけなければ何をしてもよい」という無気力、無関心なだけの若者でしょうか。夢や志を持ち、「日の丸」の重みを理解した若者を育てること、それが「二ート」や「少子化」対策から日本の再生に至るまでの、いちばん確実な方法だと思います。

本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』2006(5月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。
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