| 今年の八月、初めてベトナムを訪ねる機会がありました。 15日の終戦記念日は共産国家の首都ハノイで迎えましたが、小泉首相の靖国参拝は何のニュースにもならず、話題にものぼらず、旅行は快適にスタートしました。 ベトナムといえば、ベトナム戦争、ベトコン(「南ベトナム解放民族戦線」の俗称)、北爆などといった言葉が当時のニュース映像とともに思い出され、暗いイメージを持っていました。 しかし、事実はまったく違いました。 北のハノイから、ダナン、フエ、そして南のホーチミンヘ行きましたが、どこでも人々は親切で、礼儀正しく、特に日本人には友好的で、いやな思いをしたことは一度もありませんでした。通訳として同行してくれた若いベトナム人女性も、礼節のある親日家でした。 農村や海岸の風景は美しく、一方、都市部には立派なホテルがありました。全体的に明るく、開放感があって、共産主義の国であることをすっかり忘れ、公的な建物に掲げられている赤旗を目にしたときに、"ああ、ここは共産国家だ"と思うくらいでした。ホーチミン市では、わが麗澤の卒業生に会うことができ、彼が活躍する姿を見て、うれしく思いました。 日本からこの国にいち早く企業進出し、ダナンで近代的な工場を経営する友人のT氏夫妻には、たいへんお世話になりました。その清潔な工場では、数人の日本人と中国系マレーシア人の社長、そしておよそ六百人のベトナム人がいきいきと真剣に働いていて、輸出に貢献し、経済発展の一翼を担っている姿に深い感銘を受けました。 「この国では自由な経済活動が可能です。規制の多い日本のほうがよほど共産主義的です」とT氏は言っていました。経済、社会、思想の面で改革・開放をめざす「ドイモイ(刷新)政策」が花開きつつあるようです。 戦後わずか三十年しか経っていないのに、この国はみごとに復興し、発展しつつあります。フランスの植民地時代の建物やアメリカの経済資本などもうまく活用し、両国とも良好な関係を保っています。フランスやアメリカからの旅行者も数多く見かけました。 この国が立派なのは、ひとえに良き国民性に基づいていると思います。主に仏教の信仰心を根底にした寛容性、勤勉性、教養、礼節、誇りなどを、行く先々で出会う人たちに感じました。 「ホーおじさん」と呼ばれ、民衆から愛され慕われた建国の父、無欲の指導者ホー・チ・ミンも、こうした国民性の中から生まれたのだと思います。 国の発展の基は、主義や政治体制にあるのではなく、良き国民性そのものにあるのだと、共産主義の国ベトナムであらためて思いました。 本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2006年11月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。 |