| この夏は記録的な猛暑でした。 七月の参議院選挙も熱気が満ちていましたが、不祥事、失言、年金問題の三点セットで安倍首相の指導力や危機管理能力が間われ、自民党に熱いお灸がすえられました。 参議院で野党が多数を占めたことから、今後の政策決定には野党の主張が反映される可能性が大きくなります。特に野党第一党の民主党には、なんにでも反対する姿勢を脱して、国民の信を得られる建設的な政策を責任を持って提起してもらいたいと望みます。 安倍首相は、「文化・伝統・自然・歴史を大切にする国」「自由と規律の国」「イノベーションで新たな成長と繁栄の道を歩む国」「世界に信頼され、尊敬され、愛される、リーダーシップのあるオープンな国」を政権の基本的方向とし、「美しい国、日本」の実現をめざしてさまざまな政策を打ち出し、実施の努力を重ねてきました。 「強い日本、頼れる日本」になるための「主張する外交」、新憲法の制定を視野に入れた「『戦後レジーム』から、新たな船出を」などの政策は、これからの国づくりに欠かせないものでしょう。 教育基本法の改正など、今までだれも手をつけなかった大事なことを行ったのは評価すべきだと思います。 ただ、正論というものには反対勢力も強く、それだけにもっと慎重に、かつ場合によっては断固たる姿勢で内閣の運営をしてもらいたかったと残念に思います。政治には正しい理念が必要ですが、理念が先走りして、足元がふらついては、どんなによい理念でも具体化することはできません。 今一つ残念に思うことは、今回の選挙は争点がズレていたのではないかということです。それは内閣にとってばかりではなく、国民にとっても不幸なことでした。 不祥事や失言を争点にする愚は言うに及びませんが、年金間題などもそうではないでしょうか。十年前に提案された「国民総背番号制」を取り入れていれば、この問題はもっと早くに解決出来たように思います。アメリカにはSocialSecurity Number (SSN) があります。これは社会保障を受けるための登録番号であり、同時に納税のための登録番号でもありますが、戸籍制度のないアメリカでは個人を特定する唯一の手段であるため、就職、銀行口座の開設、運転免許証やパスポートの取得などさまざまな場面で使用されます。SSNを一度取得すれば、苗字 や住所が変更しても一生涯利用できます。「国民総背番号制」も同様で、これが行われていたら、就職先の変更とか離婚等、プライベートなことまで第三者委員会に洗いざらい言わなければ年金が受け取れないなどというばかげたことはなかったでしょう。 要するに年金間題は事務レベルの間題であり、合理的なシステムを確立し、着実に機能させればよいのであって、選挙の争点にはならない性質のものです。ほんとうに争点とすべきは、憲法改正や国防間題、教育再生、拉致間題など、国の骨格や将来にかかわる重要事項でなければならないと思います。 とりわけ現行憲法は主権の制限された占領下で押しつけられたもので、「アメリカ人の、アメリカ人による、アメリカ人のための憲法」と言うべきものです。それを六十数年、一字一句変えないできた日本は、独立国家とはとても言えません。国の現実、世界の情勢を見極め、「日本人の、日本人による、日本人のための憲法」を制定する必要があると考えるのは私一人でしょうか。国家の枠組みをどのようにしていくか、この最重要なことを選挙の争点にし、皆で真剣に考えていかなければ、この国の将来はないような気がします。 猛暑が去って、落ち着いた季節がきました。静かな心と冷静な頭で夏の喧騒を振り返り、国の来し方行く末を考えてみたいと思います。 本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2007年10月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。 |