この国に生まれた喜び』
--本誌創刊五十年に思う--
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
   新年おめでとうございます。読者の皆様のますますのご健勝を心から祈念いたします。
 昨秋は内外の名所旧跡を訪ね、また、海外の有識者とお会いしました。 台湾では李登輝前総統にお会いし、日本の武士道精神は国を超えて普遍であるとのお話をお聞きして、たいへん感銘しました。 滋賀県彦根市の、築城四百年を迎えた彦根城(国宝)を見学したときは、彦根藩主から幕府の大老職となった井伊直弼の事跡をたどりました。黒船来航で鎖国か開国かで混乱したとき、井伊は国の将来のために命を賭して開国を断行し、外国と修交を結びました。反対派によって江戸城の桜田門外で暗殺されますが、のちの歴史は井伊の判断が間違っていなかったことを証しています。

 岡山では、備前藩主・池田光政が庶民教育を目的に開いた学校で、藩営としては日本最古の庶民学校である閑谷学校を訪ねました。国宝の講堂と聖廟へ登る石段の左右一対の楷の木で有名なこの学校では、儒教精神に基づく教育が行われ、明治期には旧制中学、新制高校と変遷、現在は県青少年教育センターがあって、創立以来三百有余年、有為な人材を世に送り続けています。

 さらに上野の森の東京国立博物館で、「大徳川展」を見ました。徳川将軍家と徳川御三家などに伝えられてきた門外不出の品々や貴重な宝物三百余点が一堂に集められ、「将軍の威光」「格式の美」「姫君のみやび」という三つのテーマの下に展示されていました。

 徳川家康所用の大きな金扇馬印、家康が関ヶ原の合戦に着用した歯朶具足と呼ばれる甲冑、家康の太刀、愛用した鉛筆、目器(メガネ)などが展示されていて、興味は尽きません。歴代将軍の数々の遺品や直筆の書、水戸黄門の印籠にも目を奪われました。名物茶道具や絢燭豪華な能装束には、洗練された武家の美意識を感じました。王朝絵画の至宝「源氏物語絵巻」、姫君たちの華麗な婚礼調度や衣装には、ため息が出ました。

 徳川三百年は、世界にもまれな平和で充実した時代だったように思います。大義と礼節を重んじる武士道精神が脈々と息づいていたのみならず、美術、工芸などの文化面でも私たちの先人は優れていました。世界史の奇跡と言われた明治維新、そして政治・経済・文化・教育の円滑な近代化の基礎は江戸時代にすでにあったことを、「大徳川展」で実感することができました。

 その後、恒例の伊勢の神宮参拝をしました。参道を歩きながら、日本の先人たちが太古から守り伝えてきた美しい自然に、心洗われる思いがしました。神宮では今、平成二十五年の第六十二回式年遷宮のための準備が着々と進められています。歴史と伝統と自然豊かなこの国に生まれた喜びを、あらためて噛みしめました。この国の民であることに誇りを持ち、読者の皆様とともに、新しい年を元気に歩んでまいりたいと思います。

本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2008年1月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。
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