| 今年六月で創刊五十周年を迎える本誌『れいろう』は、家庭教育の重要性を一貫して考えてきました。多くの読者の皆様に長年ご声援をいただき、心から御礼申し上げます。この五十年間で社会は大きく変わり、たいへん豊かになり、便利になりました。一方、五十年前には考えられなかったような悲惨な事件が頻発していますひ昨年検挙された殺人事件約千件のうち、家族間で起きた事件がおよそ半数を占めるという事実に、驚きを禁じえません。豊かさ、便利さの中で、私たち日本人は、人生で最も大切なものの一つ、家族の重要性を見失ってしまったようです。 その原因の一つに、個人の自由、権利、平等を強調してきた戦後の教育があるのではないでしょうか。他の人への思いやりのないところに絆は形成されず、家族の絆がなければ家庭は成り立たないでしょう。 先日、お会いしたYさんは、福岡市で寺子屋モデルという株式会社を立ち上げ、幼稚園や学校で偉人伝の語り聞かせをしたり、家訓づくりの指導をしています。 大手建設会社の社員であったYさんは、ナイジェリア、英国、米国に駐在し、十五年ぶりに帰国。そのとき、友だちに会っても嬉しそうな顔をせず、挨拶もしない子どもたちにショックを受け、「日本の子どもは心が動いていない。目の輝きがない」と感じました。豊かすぎるためだと言う人もいましたが、米国の子どもはイキイキしているので、それでは説明がつきません。そして思い至ったことは、日本の子どもは、自分にも、自分の育った環境にも、自分の国にも、自信がないからだ、ということでした。そこで、子どもたちの心を動かし、自信を持たせたいと、江戸時代の寺子屋を範にした教育事業を興したのです。 西郷隆盛、野口英世、新渡戸稲造など、かっては誰もが知っていた日本の偉人の物語を聞くうちに、子どもたちの目は輝いてくるといいます。心に刻まれる偉人たちの事跡や言葉は、日本に生まれた喜びと誇り、そして自信の基になっていくでしょう。 若い親たちには武将が残した家訓、たとえば鎌倉時代の武将・北条重時の「いかにも人のため世のためよからんと思ひ給ふべし。行く末のためと申す也」などを紹介します。現在でも立派に通用する内容に、驚く人も多いといいます。そして家庭生活のルールを簡単な言葉にまとめて「わが家の家訓」を作ることを勧めています。それは、「朝起きたら明るく挨拶する」などというような当たり前のこ とでいいのです。これを家族のみんなが実行すれば、絆が生まれ、個人生活の基本である家庭が斉っていくでしょう。その家庭こそ人間教育の出発点であると思います。 本誌創刊五十周年を記念して、「生きる力--家族のきずなを考える」をテーマに、この四月から、東京、名古屋、大阪、福岡で、家庭教育シンポジウムを開催します。多くの皆様と共に家庭の大切さを考えたいと思います。 本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2008年4月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。 |