| 北京オリンピックも、競技としてはともかくも多くの感動を残して終了しました。男子四百メートルリレーの銅メダル獲得もその一つでした。そんなときに、菅野倖信さん(モラロジー研究所客員講師)から次のような興味深いエッセーをいただきました。 ----コロンブスをはじめヨーロッパの冒険者たちに紹介された新大陸アメリカヘ、希望に燃える移民団を乗せた船団が続々と大西洋を渡った。 ネイティブアメリカンを蛮人と決めつけ、彼らから移民団を守るとの名目で、新鋭のライフル銃と拳銃で武装した「ソルジャーブルー」と呼ばれる騎兵の軍隊が多数投入された。ソルジャーブルーは東海岸から西部をめざして竜巻のように吹き 荒れ、あたかもネイティブ根絶が目的ではないかと思えるほどだった。ネイティブの姿が見えなくなった内陸部を西へ西へと移民団が進み、われ先にと入植していった。 広大な西部開拓地を眼前に、騎兵隊長が大地に一本の長い長いラインを引き、入植者たちを並べて大声で言った。 「これから天に向かって拳銃を放つ。それを合図に足元のラインから先の無限の大地へ駆け出し、自分の希望する広さの土地、自分が管理できる土地を確保しろ。確保した土地は、その日から各自のものだ」 群衆は、われ先にとラインの前に並んだ。ある者は馬にまたがり、ある者は幌馬車に乗って、少しでも有利なスタート位置をキープしようとした。準備のできた入植者たちは固唾を飲んで隊長を見つめた。隊長はラインの上に立ち、腰のガンホルダーから拳銃を抜き出し、頭上高く上げて大空に銃口を向け、「準備はいいか」と呼びかけ、引き金を引いた。「ズドーン」と銃声が荒野に響くと同時に群衆が一斉に走り出した。だれよりも早く、だれよりも遠くへ、だれよりも広く土地を確保し自分の土地だと宣言するために、駆けに駆けた。アメリカの西部開拓の、これが幕開けである。 以来、競争のスタートとして「よーい、ドン」などの掛け声と共に、銃声を起源とする合図が用いられるようになった。---- 学校の運動会はもとより、オリンピックでも当たり前になっている「よーい、ドン」の起源がアメリカの西部開拓史にあり、この国の活力の源となっていることを知りました。 オリンピック開会前の八月四日、「道徳教育をすすめる有識者の会」(代表世話人・渡部昇一上智大学名誉教授)が発足し、都内で記者会見を行いました。私も世話人の一人である同会の目的は、わが国の道徳教育のあり方を提示することです。 日本社会の現状を見るとき、もはや道徳教育の是非を議論しているときではないように思います。心ある多くの国民も、道義立国日本の再生に向けて私たちと同じスタートラインに立ち、「よーい、ドン」の合図を今や遅しと待っているのではないでしょうか。 本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2008年10月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。 |