『坂の上の雲』
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
 昨秋の一日、愛媛県松山市を訪れました。道後温泉と小説『坊ちゃん』の舞台で有名な松山ですが、最近は街のもう一つの顔が注目されています。司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』の主人公であり、日露戦争勝利の立役者である秋山好古、真之兄弟。この英雄を育んだ地が松山です。
 兄・好古が世界最強のロシア騎兵を打ち破り、弟・真之は丁字戦法を立案してバルチック艦隊を撃滅する。この二人の活躍なくして、有色人種の小国・日本が、白人の大国・ロシアを打ち貝かすという世界史上の奇跡は実現しませんでした。インドのネール元首相は「アジアの一国である日本の勝利は、アジアのすべての国に大きな影響を与えた」と記しています。もしこの戦いに負けていたら、日本はロシアに完全支配され、今日に至るも、世界中が欧米の植民地と人種差別に満ちていたかもしれないのです。まさに世界的偉業といっていいでしょう。
 ところが現在、学校で子供たちが使っている教科書のほとんどは、この日露戦争の意義に触れていません。このままでは、私たちの先人が世界の歴史に刻んだ偉業が忘れ去られてしまうのでは、と心配になります。
 そうした中、昨年十一月に松山市で行われた「全国青年大会in四国」には、有為の青年五百八十二名が集い、大津寄章三教諭の講演から、日露戦争の史実
や先人の気概に学びました。歴史教育の本来の役割とは、偉大な魂との出会いの機縁をつくることにあります。自国の先人の魂に触れ、心を震わせることで、眠
っていた魂は目覚め、明日を生きる力になります。講演を聞き終えた青年たちの眼には、母国への誇りと未来への希望が満ちていました。
 いつの世も、閉塞した時代を切り拓くのは若い力です。欧米列強に追いつき追い越し、有り余るほどの物質的豊かさを手にした日本。その豊かさも今や、経済
的・政治的混迷の中に失われようとしています。輝かしい二十一世紀を切り拓くために、私たちは第二の坂を登ってゆかねばなりません。どんな困難があるかわかりませんが、先人の気概と勇気に学び、夢と希望をもって一歩一歩登っていきたいものです。
本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2010年2月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。
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