『鉄は熱いうちに』
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
最近、教育界に久しぶりの朗報がありました。「ゆとり教育」からの転換がようやく方向づけられたことです。詰め込み教育の悪弊を唱え、子供の生きる力を養おうと、平成十四年からは完全学校週五日制や総合的な学習の時間も導入されました。もつとも、ゆとり教育実施後の国際学力調査では、数学が世界トップから十位まで陥落、読解力は十五位にまで下がり、学力の低下傾向は強まるばかり。そうした知育の弱体化に加え、徳育の取り組みも不十分で、心の未発達な若者が社会にあふれる結果となっています。これでは「ゆとり」とは名ばかりの「ゆるみ」教育というほかありません。
かつて日本の教育水準の高さは、世界でも群を抜いていました。日本で普通の成績の子供たちが、親の転勤などで海外の学校へ通い始めるや、たちまち優等生になったという話が数多くあったのです。九九や暗算といった基礎学力が、学校教育で十分に養われていたからです。もっとも、それも過去の話。今では中学生になっても九九はおろか、カタカナも満足に書けない子がいると聞きます。物的資源に乏しい日本が、世界の国々と伍してこられたのは、よき人材があればこそです。
かつて寺子屋では、『論語』などの四書五経や歴史書を子供たちに素読させ、頭に詰め込ませました。そうした基礎教育があったからこそ、封建体制から抜け出たばかりの明治日本は、西洋の技術や文化を瞬く間に吸収し、列強を追い越すことができたのです。
教育は国家百年の計といわれます。権利や自由、平等、個性の尊重という美名のもとに、最低限必要な教育を受けられなかった子供たちが今、社会に適応できず苦しんでいます。
古人日く「鉄は熱いうちに打て」と。然るべき時に然るべきことを教えず、教育の義務を果たしてこなかったわれわれ大人の責任が問われているように思います。 
本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2010年7月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。
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