『日本の行く末』
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
  今年の夏は各地で記録的な猛暑となり、涼を求める人々の姿が連日ニュースで紹介されました。その中で、今夏は熱中症の被害が急増し、大半が一人暮
らしの高齢者であることが報じられていました。
 世界でも例のない高齢社会の日本では現在、六十五歳以上の一人暮らしは四百六十万人以上おり、この数は年々増えると言われています。頼れる人もなく、誰にも看取られない「孤独死」が社会問題となっています。インターネットで瞬時に世界中の人々とつながる先端情報社会において、一番身近な家族にさえ知られずに人生を終える人が多くいることは現代日本のパラドックスと言えるでしょう。
 さらに最近、都内で最高齢の百十一歳とされていた男性がミイラ化した遺体で見つかった事件は、二重に衝撃的なものでした。まず、同居していた家族が何十年も放置していたこと。そして、その生死も不明な高齢者に漫然と年金を払い続けていた国側の対応です。
 この事件を機に、全国で百歳以上の所在不明者が次々に明らかとなりました。生徒が何人いるのか把握していない学校、行方知れずの礼員に数十年も給与を支払う会社はありません。仮にそのような無責任があったとして、学校や会社ならまだ他の選択肢もありますが、国家・国籍はそうはいきません。
 高齢者の孤独死の一方で、幼児が生みの親から食事や十分な養育を受けずに、命を落とす虐待事件も続発しています。親を扶養し、生まれた子を扶育するのは人として当然の義務であり、家族の生死を国家に届け出るのは国民として最低限の義務です。国家とはこうした一人ひとりの不断の義務により維持されていくものなのです。「誰かがやってくれるだろう」と義務から目をそむけ、権利や保障を求める無責任な国民ぱかりになってしまったら、国家は崩壊してしまうでしょう。今回の一連の事件は、目本ではもはや、世界の常識である国民の絆、人問生活の基本である家族の絆が過去の遺物となりつつあることを内外に印象づける結果となってしまいました。
 今や日本の治安のよさや清潔さ、すばらしい食文化は外国人に高く評価され、世界中から旅行者が訪れています。しかしその足元では、国の根底がまさに崩れかけようとしているのです。その行く末に不安を感じるのは私だけでしょうか。
本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2010 10月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。
バックナンバーは下記をクリック
11月 12月 1月 2月 3月 4月
5月 6月 7月 8月 9月 10月
11月 12月 1月05 2月05 3月05 4月05
5月05 6月05 7月05 8月05 9月05 10月05
11月05 12月05 1月06 2月06 3月06 4月06
5月06 6月06 7月06 8月06 9月06 10月06
11月06 12月06 1月07 2月07 3月07 4月07
5月07 6月07 7月07 8月07 9月07 10月07
11月07 12月07 1月08 2月08 3月08 4月08
5月08 7月08 8月08 9月08 10月08 11月08
12月08 1月09 2月09 3月09 4月09 5月09
6月09 7月09 8月09 9月09 10月09 11月09
12月09 1月10 2月10 3月10 4月10 5月10
6月10 7月10 8月10 9月10