『読書の秋』
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
 今年が「国民読書年」であり、さまざまな催しが行われていたことを、私はつい最近まで知りませんでした。「読書離れ」と言われますが、文化庁の調べでは「一か月に一冊も本を読まない」という人が、今や日本人の約半数を占めるそうです。
 私が海外から帰国した二十数年前のことです。小学生になった息子のために文学全集や偉人伝を求めようと、都内の書店を訪ねました。ところがどこにも見つからず、店員に尋ねると「今は置いても売れなくなったので」と言われ、驚いた記憶があります。
 当時はバブルの絶頂期。街にはモノがあふれ、子供の好奇心は読書からゲーム機へと移っていきました。我々が育った時代には、目を輝かせて本を開く子供が多くありました。読書をとおした著者との静かな対話が、教養の源でした。その後、技術の進歩や経済の発展によってテレビ、インターネット、DVDなどメディアが多様化し、活字文化はかつての勢いを失っていきました。
 さらにもう一つの流れとして「iPad(アイパッド)」など高性能端末の登場による、電子書籍化があります。どんな大著もデジタルデータ化すれば、何冊分でも楽に持ち運ぶことができ、欲しい本はインターネットを通じて二十四時間購入できます。いわば“読書のコンビニ化”であり、読書促進の起爆剤となることを期待する声もあります。
 世界有数の蔵書家でもある渡部昇一・上智大学名誉教授は「紙の書籍を食事に喩えれば、電子書籍はサプリメント。栄養剤だけでは人は成長できない」と指摘されています。メディアの多様化で情報はより身近になりましたが、問題はそこに人問の血となり肉となる価値ある情報がどれだけあるかです。「衣食足りて礼節を知る」という言葉に反して、経済的繁栄を手にした日本では、モノや情報の豊かさと引き換えに、日本人としての教養や心の豊かさが失われてしまったのではないでしょうか。
 この度、渡部先生とわが麗澤大学の中山理学長の対談本『読書こそが人生をひらく』〔モラロジー研究所)が刊行されました。早速に目をとおし、実物を手にした読書の大切さをあらためて実感しました、灯火親しむこの季節、私も良書を手に取り、読書の楽しみに浸ってみたいと思います。  
本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2010 11月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。
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