『日本の希望』
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
  今年も残すところわずかとなりました。振り返れば政治に経済、外交と波乱の一年だったように思います。その中で今年のノーベル化学賞に鈴木章教授、根岸英一教授が選ばれたことは、暗い世相を払拭する明るい話題となりました。
 その受賞の記者会見を通して、二人の謙虚な人となりにふれ、多くの人が好感を持ったのではないでしょうか。欧米では実績ある研究者が、賞の候補者として自ら手を挙げることが多いと聞きますが、両教授には人を押しのけてまで功を成そうという態度が感じられません。
 受賞につながった「クロスカップリング」の技術は、無数の分野で応用され、医療や産業の発展に大きく貢献しました。鈴木教授はある時、長女から「特許を取ればお金持ちになれるのにね」と言われたところ「そうするとみんなが技術を使えない」と答えたといわれます。あえて特許を取ろうとしなかったからこそ、世界人類の便益のすそ野を広げることに役立ったのです。今回の受賞がなければ、その功績は世に広く知られずに終わったことでしょう。
 この秋、明治神宮鎮座九十年を祝う会に参加する機会を得、明治の先人の偉業を思い起こしました。あわせて今年は、教育勅語が渙発されて百二十年目にもあたります。両親への感謝、友への信頼、公益の精神など、人間として備えるべき美徳を説いたこの教育勅語が、変革期にあった明治の日本における国民道徳の礎となって、世界に誇る近代化が成し遂げられました。
 鈴木教授、根岸教授がそれぞれ研究を始めた1960年代、彼ら邦人研究者を駆り立てたのは「資源のない日本が今後、世界に伍していくには"科学立国"しかない」との信念でした。そこから日本は奇跡の高度成長を遂げ、一躍経済大国、科学技術大国となりました。公のために苦労と努力を重ね、その成果を独占しようとしない両教授はまさに、教育勅語に象徴される明治の精神を体現した、よき日本人であると感じました。
 その精神を次の世代へとつなげていければ、と思うのは私だけでしょうか。記者会見で見せた両教授の元気な笑顔に、私は日本の希望を見いだしました。
本稿は、財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2010年12月号)誌に掲載 されている 廣池幹堂理事長の「巻頭言」で、ご本人の承諾をいただき掲載をしております。
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