『子供たちへの贈り物』
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
 政治、経済と暗い話題が続く中、恵まれない子供たちに匿名で寄贈をする「タイガーマスク運動」がにわかに沸き起こり、日本中を駆け巡りました。昨年の末、群馬県の児童福祉施設に、孤児院を支援し続けたヒーロー「タイガーマスク」の主人公の名前でランドセルが贈られたことを発端に、わずか一か月で同様の善行が全国四十七都道府県にまで広がりました。
「無縁社会」といわれる今、耳を疑うような冷酷な事件が相次ぐだけに、このささやかなニュースは多くの人の心に響いたことでしょう。願わくは単なるいい話で終わらせず、これを機会として、恵まれない子供たちへの関心、福祉の心を日本人全体で共有していけるよう祈らずにいられません。
平城遷都千三百年の昨年、奈良県に光明皇后(701〜760)の事跡を訪ねました。聖武天皇のお后として、民間から初めて皇后になられた光明皇后は、仏の慈悲を実践され、病人を治療する施薬院、孤児や貧窮者を養う悲田院を都につくられた方です。ゆかりの法華寺には、光明皇后が千人の病を癒したという天平時代の蒸し風呂が境内に復元されて見ることができました。
 ナイチンゲールの一千年以上前、いまだ人権や福祉という言葉もなかった時代に無料診療を始め、荒む人々の心を癒し、孤児に温かな手を差し伸べた光明皇后は、世界に誇る"福祉の先覚者"といえます。その精神を悠久の時を超えて継承し続けるご皇室の存在を思うとき、私はこの国に生まれた幸せを感じずにいられません。
 困難な時代こそ、国民の絆、家族の絆が試されます。親と暮らせない子供たちにランドセルや金品を贈ること、それ以前に大切なのは、"無縁"に苦しむ人を生み出さない社会づくりではないでしょうか。勇気ある「タイガーマスク」のランドセルに込められたメッセージを読み取り、私たち一人ひとりが当事者として実践していくこと、それこそが子供たちへの最大の贈り物であると思います。 
本稿は、公益財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2011年3月号)誌に掲載されているものです。
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