『見慣れぬ小冊子』
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
  四十年前のある日、病院に運び込まれたある女性患者との出会いが、若き開業医S氏の運命を変えました。その患者は入院中、どんなに辛く苦しい時でも「ありがとう、おかげさまで」という言葉を忘れませんでした。二か月が経ち退院するとき、患者はお礼にと、見慣れぬ小冊子を病院に残していきます。何気なく手に取ったS氏は、わずか二十数ぺージの冊子から受けた衝撃を、次のように記し
ています。
 「特集『正義が勝つとは限らない』をテーマにしたこの小冊子に、私は目を見張る思いがした。当時、盛んであった大学紛争から忠臣蔵の浅野家の運命まで例をひいて、不完全な正義というものは常に闘争がつきまとうと述べ、私たちが日ごろ正義と思い込んでいることに、もう一度正しい。ものさし(標準)をあてて考える必要のあることを教えられた。さらに真の正義は低いやさしい親心で、その実現に努力すれば結果がよくなることさえ、わかってきたのである」(『ニューモラル』創刊百号記念原稿募集、入選作品)。三十六歳で独立し、弱者を守る正義を旗印として理想の病院づくりに没頭していたS氏は、かたくなな自分の心が、患者や職員とのあつれきの原因を作っていたことに気づいたのです。女性患者の低
く思いやりある人柄にも魅せられ、S氏はこの学問で自分の品性を磨いていく決意をします。
 ″狭い正義九から。周囲との調和〃へとS氏のめざすものが変わりゆくにつれ、人間関係は和やかになり、今では近代的設備をもって老人医療にも取り組む、地域になくてはならない病院となっています。
 ’S氏の人生を変えた小冊子『ニューモラル』は今年、通巻五百号を迎えました。
 人々が幸せになるためのモラルとは何か。それを問い続けることの大切さを感じずにいられません。これからも一人でも多くの方が安心と幸福の人生を築く、そのお手伝いができる小冊子であることを願うばかりです。
本稿は、公益財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2011年5月号)誌に掲載されているものです。
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