『明日への責任』
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
  岩手県陸前高田市の白砂青松(はくしゃせいしょう)の浜と知られた7万本の松のうち、津波から唯一残った「奇跡の一本松」が復興のシンボルとして注目されています。現地で目にした一本松は、海水に漬かりながらも、懸命に根を張って立ち続け、復興へ励む人々の姿と重なって見えました。
 東日本大震災は戦後最大の国家的危機といわれますが、今年は奇しくも、戦後の起点ともいえる、サンフランシスコ講和条約から60年目にあたります。
上智大学名誉教授の渡部昇一(わたなべしょういち)先生は新著の中で、日本は1853年のペリー来航以来、サンフランシスコ講和条約に至るまで、欧米諸国と「百年戦争」を戦ってきたのだと指摘されています。この一世紀の間、日本人は衆知を集めて努力を重ね、ついに世界が羨望する経済大国を築き上げました。しかしその過程で、古きよき伝統の多くが失われました。
 戦後の大きな課題であった沖縄返還交渉を成功に導いた国際政治学者の若泉敬(わかいずみけい)氏は、「敗戦後半世紀間の日本は、”戦後復興”の名のもとにひたすら物質金銭万能主義に走り、(中略)”愚者の楽園”と化し、精神的、道義的、文化的に”根無し草”に堕ちてしまったのではないだろうか」と指摘しています。(『他策ナカリシヲ信ゼルヲ欲ス』文藝春秋)。鋭い言葉の背景に、若泉氏の真に祖国を愛する、熱い思いが伝わってきます。
 震災で諸外国から称賛された日本人の精神性の根っこはどこにあるのか。民族の歴史を正しく理解し、語り継ぎ、国民全体で共有することなくして、「戦後復興」は成ったとは言えないのではないでしょうか。
 来年度から中学校で使われる教科書の採択が、この夏から行われます。苦難に負けない心の強さは、国や郷土への誇りや愛情という「根っこ」があってこそ培われるものです。今回、そんな根っこの栄養となる歴史教科書ができたことを、うれしく思います。「この国に生まれてよかった」と子供たちが思える教育を残していく責任が、私たちにはあります。
本稿は、公益財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2011年8月号)誌に掲載されているものです。
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