極楽浄土の祈り
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
  岩手県の平泉がユネスコの世界遺産に登録されたニュースは、東北を活気づけるまたとない朗報として全国をかけ巡りました。
 平泉が世界遺産として評価されたのはその「浄土思想を基調とする文化的景観」です。平泉は古くから軍事的要所として、合戦の場所となり、平安時代末期には奥州藤原氏の本拠地として、平安京に次ぐ大都市として栄えた時もあったといわれます。
 この平泉を代表する中尊寺が開山したのは850年。そのおよそ20年後に、東日本大震災の衝撃に匹敵するという貞観地震が起き、甚大な被害がありました。その後、中尊寺に金色堂を創建した藤原氏がそこに寄せた供養願文には、自分の家族や家臣のみならず、これまでの戦いで命を落とした勝者も敗者も、そして人のみならず動物に至るまで、すべての魂が浄土に導かれるようにとの願いが掲げられています。
 浄土とは仏が住む場所であり、この世を去った魂が赴く、幸ある極楽の地。金色堂には当時の人が心に描いた理想世界を感じ取ることができます。 
 日本人は、浄土は宇宙の無限のかなたにあるのでなく、生活圏の周囲の山や海にあるものと考えてきました。そこから先祖の精霊が故郷に戻り来るのがお盆とお正月です。先祖は今を生きる私たちの命の源であり、お正月やお盆は、その先祖の「おかげさま」に感謝し、そのやすらかな成仏に祈りをささげる、いわば”命のつながり”を確認する貴重な機会といえます。 
 生きとし生けるものの供養を願い、この世に極楽浄土の世界をつくろうとした奥州藤原氏。千年を経た今、盆と正月には日本の各地で先祖の精霊が迎えられ、仏の暮す浄土と現実の世界が橋渡しされます。 
 東日本大震災で大きく見直されたもの、それは命のつながり、人との絆でした。先祖とのつながり、家族の絆を再認識し、今ある命に感謝して毎日希望と喜びをもって生きるーーーーー。今回の平泉の世界遺産登録は、その大切さをあらためて私たちに教えてくれているのかもしれません。

本稿は、公益財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2011年9月号)誌に掲載されているものです。
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