どじょうと昇龍
モラロジー研究所理事長
廣池学園理事長
廣池幹堂
  1895年、日清戦争に勝利し、凱旋行事で沸き立つ日本に、一人の中国人青年が海を渡ってきました。日本が明治維新によって西欧の侵略を跳ね返す近代国家への道を歩んだように、わが祖国も腐敗した清王朝を倒し、近代化革命を遂げなければーー。
祖国を思う青年の熱い志に対し、多くの日本人が共鳴し、さまざまな支援を与えました。そしてついに1911年、青年は中国本土での武装蜂起を指揮し、清朝を倒して新たな国家を建設することに成功します。

 今年はこの孫文による辛亥革命から百年目に当たります。孫文の事績は、一つの理想のもとに国境を越えて手を結び合った日中交流の絆を抜きにして語れません。西欧列国の圧力に悩むアジアの同胞として、両国の行く末を憂え、共に未来を拓こうとしたのです。孫文は死去する数ヶ月前、神戸で「大アジア主義」と題した講演を行い、こう述べています。「西欧の文化は、鉄砲や大砲で他人を圧迫し、功利強権をはかる覇道の文化である。これに対して東洋の文化は、仁義道徳を主張する王道の文化である。われわれは東洋の王道文化をもって、西欧の覇道文化に対抗しなければならないーーー」

 今、孫文が呼びかけた王道文化によるアジア連帯の理想は実現に程遠い状態です。むしろ、日中両国共に本来の王道文化をどこかに置き忘れ、連帯どころか信頼関係さえ危ぶまれる状況といえるでしょう。

 麗澤大学の松本健一教授は「石の文明」のヨーロッパ、「砂の文明」のアラブに対し、アジアは稲作と共生の思想をもつ「泥の文明」であり、ここに今後の環境や紛争問題の解決の鍵があると説いています。

  九月に新首相となった野田佳彦総理は、「泥臭いどじょうのような政治をめざす」と公言しました。まず、どじょうが安心して住めるふるさとの復興をしっかりとやり遂げて、そのうえで、アジアのリーダーとして王道をめざしてほしいものです。昇竜の中国が相手では、最初からその結果は見えているのかもしれませんが

本稿は、公益財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2011年11月号)誌に掲載されているものです。
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