| 高校を出て、町の鉄工所に就職したIさんは、入社わずか1か月後、機械に右腕を挟まれる大事故に遭いました。腕は原形をとどめないほどの状態で、壮絶な痛みに耐えながら、救急車で運ばれます。ところが予定の病院は、直前に別の交通事故の患者が入ったため、受け入れてもらえません。傍らでお母さんが懸命に祈る中、Iさんは1時間かけて別の病院に運ばれ、緊急手術を受けました。 3日間眠り続け、ようやく目を覚ましたIさんに主治医は告げます。「あなたの腕は二度と動きません。今後、状態が悪くなれば切断する可能性もあります」 絶望的な宣言に動揺しながらも、Iさんは「ありがとうございました」と感謝を伝えました。すると医師はこう言います。「あなたの腕を救ったのは私ではなくて、T先生ですよ。T先生はあの日、この病院で働く最後の日で、帰宅途中に連絡を受け、駆け戻って手術された。他の先生が執刀していたら、あなたの腕はなかったと思います」 偶然運ばれた病院で、奇跡的に名医に巡り合えたことで、Iさんの腕は残ったのです。 もっとも右腕の機能はすぐには回復せず、1年近い入院生活の中で、手術は8回に及びました。その間、お母さんは毎日、片道1時間かけて見舞いに訪れました。お兄さんは職場に頭を下げて早退し、母を病院まで送迎しました。家族全員の闘いでした。お母さんは来る日も来る日も、病室でIさんの右腕をマッサージし続けました。するとどうでしょう。半年が過ぎたころ、指の先がわずかに動いたのです。「絶望」が「希望」に変わりました。懸命なリハビリの末、「二度と動かない」といわれた腕はやがて、スポーツができるまでに回復。事故から2年後、見事に職場への復帰を果たします。 Iさんはその後、縁あってモラロジーを学び始め、今は地域の青年活動のリーダーとして活躍しています。今年、40歳を迎え、決意をこう語ります。「一度はなくしていたかもしれない命。人生二回目の成人式と思い、これからは“助けられる側”から“助ける側”になりたい」と。 今年の「伝統の日」瑞浪会場で、多くの人に涙と感動と勇気を与えた、すばらしい体験発表でした。 本稿は、公益財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2013年9月号)誌に掲載されているものです。
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