| 伊勢の神宮式年遷宮で最も重要な、神様を新正殿にお遷(うつ)しする「遷御(せんぎょ)の儀」が10月上旬、内宮と外宮で行われ、前回に続いて参列する栄誉に恵まれました。 平成5年の前回と比べて、今回は遷宮に寄せる国民の関心がひときわ高く、参列者も4000名近くと規模が大きくなったように感じられ、ご神域で思いがけず何人かのモラロジーの大先輩の方々とお会いできました。 当日の外宮では午後8時に近づくと、神域内の明かりが消され、「カケロー」という鶏の鳴き声をまねた神職の発声とともに、渡御(とぎょ)行列が動き出しました。大勢の人でにぎわう日中とは異なり、ご神域は時折の小雨と風の音以外は聞こえない、静謐(せいひつ)な空気に包まれます。 神様がお通りになる奉遷路を、多数の神職が純白の長い絹垣(きんがい)で囲むと、中はまったく見えません。その後、東側の正殿から西側の新しい正殿へと神様がお遷りになります。素木(しらき)の桧の香が満ちる浄闇(じょうあん)のなか、静かに進められる祭儀の様子はまさに神秘的で、その場にいた奉拝者の誰もが、目に見えない「神の存在」を体感したことでしょう。 昭和42年に来日した歴史学者のアーノルド・トインビーは、伊勢神宮に参拝し、「この神聖なる聖地において、私はあらゆる宗教の根底をなす統一的なものを感ずる」と書き記しました。日本人に限らず、国籍や宗教、民族の違いを超えて、世界中の人々に共有の感覚をおこさせるもの、それが神宮のもつ伝統文化のすばらしさであり、式年遷宮に象徴される「常若(とこわか)」の伝統精神でしょう。永遠の建造物をめざしたピラミッドやパルテノン神殿と比べ、伊勢の神宮は太古の姿のまま、今も毎日のお祭りが行われ、1300年変わらず存在し続けています。 神宮は「日本人の心のふるさと」といわれます。祖先崇拝、自然との共存、感謝の精神。こうした日本人の精神文化の原点は、天照大神が示された「慈悲寛大自己反省」のご精神にあります。それを1300年にわたって守り伝えてこられたのがご皇室であり、神宮です。20年に一度の式年遷宮は、その象徴といえるでしょう。 歴史あるお祭りが進む漆黒の闇のなか、見上げた空がとても明るかったのが印象的でした。それはまるで日本の明るい未来を象徴しているように感じられました。これから本格的に日本の「世直し」が進むのだという大きな確信と期待を胸に、帰路につきました。 本稿は、公益財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2013年12月号)誌に掲載されているものです。 |