| 岐阜と長野の両県にまたがる、北アルプスの乗鞍岳は、祖父がたびたび登った山でした。この夏、山をこよなく愛した祖父を偲び、山頂をめざしました。 当日は、地元の方も驚くほどの快晴に恵まれ、標高2700メートルの畳平からも、雄大な景色を目にすることができました。 祖父・廣池千英は、60歳を過ぎてから、健康のために登山を始め、毎年、地元の方のお世話になりながら、北アルプスや谷川岳に登りました。半世紀前の『れいろう』にはこう書いています。「下界にはびこる詐欺、恐喝、強盗などをよそにして、一万尺の雲の上で大自然の清浄な空気にひたることは、私に大きな霊感を与えてくれます」(『れいろう』昭和33年8月号巻頭言) まだ幼かった私に「高校を卒業したら連れて行く」と約束していたものの、最後まで果たされることはありませんでした。やがて、私も何年かに一度、乗鞍へ登るようになって、祖父の言っていたことの意味が分かるようになりました。 乗鞍岳を見上げるたびに、祖父の言葉を思い出します。「登山の道は、ただ一直線ではありません。岩を回り、谷を迂回し、回り回って頂上に達します。すなわち、どうすれば天地の法則に従って、正しく曲がっていくかということが大切です」 祖父にとって、登山は人生そのものでした。登山を危険なものにするか、安全なものにするかは、自分の精神の持ち方一つであるとし、4つの心得を残しました。 1、 己を知ること。 2、 山を知り、山を敬うこと。 3、 登山に関する技術的な研究、実行など。 4、 周到な注意といっさいの危険を避けることなど。 昨今は、道路網も整備されて、多くの人が気軽に登れるようになりました。その一方で、残念な事故も増えています。「人間は謙虚であれ」。時代が移り変わろうとも、美しい大自然は変わらず、私たちに何かを教えてくれています。 本稿は、公益財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2014年11月号)誌に掲載されているものです。 |