| 学園創立80周年の今年、記念講堂で初めて本格的なジャズの生演奏が流れました。 「麗澤の森ニューイヤーコンサート」に近隣からも多くのオールドファンが詰めかけ、日本のジャズの第一人者・前田憲男さんや歌手の伊東ゆかりさんなど、一流の音楽家による特別コンサートを楽しみました。 演奏とともに印象的だったのは、前田さんによるジャズのお話でした。「ジャズとは何ですか」と聞かれて、明確に答えられる人はいないでしょう。ジャズの歴史は、アメリカの南北戦争中にリンカーンが行った「奴隷解放宣言」に始まります。黒人たちは奴隷という身分から解放されたものの、自活する術をなかなか得られず、なるのは野球選手か音楽家。音楽といっても基本的な素養がないため、譜面が読めません。そこでピアノ、ドラム、トランペットなどそれぞれが、即興で譜面のない旋律を演奏する、ジャズが黒人音楽として生まれました。前田さんは「これくらいなんでも自由にできる音楽はジャズしかない。“いいかげんさ”がジャズの特徴なんです」と言います。 「即興演奏」のジャズは、基本のしっかりした演奏家たちが、思い思いに自分の世界を奏で合う、強烈な“自己主張”のぶつかりあいです。同じフレーズをやれといわれても二度とできません。日本的にいえば「一期一会」の音楽です。 日本の伝統である茶の世界では、主と客が茶会を一生に一度の機会ととらえ、共に助けあって茶の湯をつくる「一期一会」の精神を大切にします。四畳半の茶室に会し、一服の茶に広大な宇宙を凝縮し合う、それは奥ゆかしくも究極の“自己主張”といえるのかもしれません。動のジャズと静の茶。今年も初釜に参加しながら、洋の東西を隔てた文化の意外な共通点に思いを馳せました。 生まれてまだ150年ほどのジャズが、多くの日本人に好まれ、浸透している背景には、異文化に対する寛容さがあるように感じます。時にはその自己主張のなさが誤解され、理解されにくい事があるのかもしれません。よい意味での「いいかげんさ」をもつ日本は、宗教的対立がますます深刻化する世界にあって、稀有な存在です。 異なる宗教をもち、自分の価値観をぶつけ合う世界の人たちが、いつか日本に集い、「いいかげん」に一期一会を楽しむ。そんな日がくることを願わずにはいられません。 本稿は、公益財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2015年3月号)誌に掲載されているものです。 |