| 美しく年を重ねる「グッドエイジャー賞」に輝いた評論家の金美齢さんが、最新の対談本のなかで「91歳」の「すごく美しいひと」として紹介している女性がいます。200年つづく蒲鉾屋さんの会長、Y子さんです。 Yさんは朝早くに出勤をして、魚屋さんに電話をかけます。蒲鉾の材料のことではありません。社員たちにふるまう賄い料理の献立を立てるためです。 その日の食材が分かると、頭の中で朝食・昼食の献立をパッと組み立て、「今日は、これとこれをメニューにしなさい」と調理場に指示を出します。そして、みんなの喜ぶ顔を思い描きながら時には包丁を持ち、食堂に社員が集まると「お代わりいらんか」とやさしく声をかける。そんなYさんのことを、社員たちは「会長」ではなく「お母さん」と呼びます。 江戸時代から代々、蒲鉾業を営む家の長女に生まれたYさん。しかし昭和20年の大空襲で家や工場などすべてを失い、焼け跡から再建を試みる両親を助けるため、幼い弟妹の世話をしながら、魚を積んだリアカーを無我夢中で引き、日々の行商で家族を支えました。 やがて出征からご主人が戻り、共に家業を守り立てますが、年若くして急逝。失意のなか「私が立ち上がるしかない」と覚悟を決めて経営を引き継ぎ、大黒柱として家庭と会社を女手一つで支えてこられました。モラロジーはそんな逆境を生き抜く道しるべになったのでした。 祖先が残してくれた“信用”に感謝し、「おいしい蒲鉾を食べてもらいたい」という真心を添えて努力した結果、北陸有数の企業へと発展し、地元の教科書に掲載されるほどになりました。 経営も安定し、ご長男に社長業を譲った矢先に、また試練が襲います。80歳手前での急性白血病でした。抗がん剤治療がどんなに苦しくとも、Yさんはモラロジーの教えを心の支えとし、感謝の心を忘れませんでした。「Yさんの態度は何か違う。どんな勉強をされているのですか」。尋ねる医師に対し、Yさんは廣池千九郎の『伝記』を贈りました。 「人生はとても楽しいもんです。したらしただけの結果が出てくるんやからね」。変わらぬ笑顔に接していると、白血病を乗り越えた苦労など、とても想像できません。 周囲に感謝のタネをまき続けるYさんの笑顔は今日も、家庭を守り、社員を支え、かかわる人たちを母の慈愛で包み込んでいます。 本稿は、公益財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2015年9月号)誌に掲載されているものです。 |