| まるで別世界にいるようなひとときでした。澄みきった冬晴れにめぐまれた1月13日、新春恒例の宮中「歌会始の儀」に陪聴をゆるされ、皇居に参上しました。 私と同じく当日招かれた80名ほどは、一人ずつ名前を読み上げられ、正殿「松の間」に案内されます。ケネディ駐日大使(当時)や大臣、大学教授など顔ぶれはさまざまでした。選者、天皇陛下から詠進を求められた召人、披講者が所定の席につくと、静まりかえった会場に、皇族を伴って陛下が入場され、一同着席ののち、古式に従って歌会始の儀が始まります。 まず、お題「野」にそって寄せられた国内外の2万首余りから、入選した10人の歌が披露されます。作者名と歌が節をつけずに読み上げられたあと、宮中独特の節回しで歌い上げられていきます。つづいて皇族御歌、皇太子御歌、皇后御歌、最後にひときわ荘重に天皇陛下の御製が歌い上げられます。 宮殿の窓からは、青天の下に都心の高層ビル群が見えます。世界有数の近代都市・東京のど真ん中にあって、ここだけ時間が止まったような、不思議な感覚を覚えました。 非日常の厳粛な雰囲気に、緊張した面持ちの陪聴者も多いなか、1時間を超える式典中、背筋を伸ばされて微動だにされない、皇族方の堂々たる立ち居振る舞いは、実に見事なものでした。皇室の伝統文化を引き継がれるお立場として、確たる思いがそのお姿に自然に表れているようでした。 日本人は千数百年前の万葉の時代から、和歌を歌い継ぎながら、独自の文化をきずいてきました。この誇るべき文化を支えてこられたのが皇室です。毎年の年頭に行われる歌会始の儀は、世界に類をみない文化行事とされ、起源は鎌倉時代とされます。 伝統文化を連綿と受け継がれてきた皇室のご存在の大きさを改めて実感すると共に、伝統の継承者として全身全霊で取り組まれるお姿に、皇室の弥栄と両陛下のご健勝を祈らずにはいられませんでした。 天皇陛下 邯鄲(かんたん)の 鳴く音(ね)聞かむと 那須の野に 集ひし夜を なつかしみ思ふ 皇后さま 土筆摘み 野蒜(のびる)を引きて さながらに 野あるごとく ここに住み来(こ)し 本稿は、公益財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2017年3月号)誌に掲載されているものです。 |