| 「知の巨人」と呼ばれた上智大学名誉教授・渡部昇一先生が、本年4月17日、天に召されました。86年の生涯でした。 英語学を専門とされる渡部先生は、評論家・著述家としても大活躍されました。たいへんな読書家であり、喜寿を目前にして、ご自分専用の書庫を建てられたほどの蔵書家でもありました。古今東西の文化や歴史、学問、宗教など幅広い分野に精通され、教養の深さ・豊かさは、ほんの数時間語られた内容で、実際に本が一冊つくれてしまうほどでした。 モラロジー研究所との交流はおよそ四半世紀に及び、ご講演のほか、麗澤大学中山理学長との対談本も4冊出版されています。昨年12月発行の最後の対談本のテーマは、奇しくも麗澤の名称の出典元である「易経」でした。先生との深い因縁を感じざるを得ません。 私は渡部先生のご著書や、機関紙での対談などを通じて、特に歴史観について多くを学びました。また、年に一回の先生との食事会は楽しく、忘れ得ぬ思い出となりました。先生は健啖家で、洒脱な一面もあり、常に活力に満ちておられました。 その功績はとても語りつくせませんが、何といっても、戦後の日本の左翼思想に偏った言論界において、物事の本質を突く堂々たる正論で風穴を 開けたことが挙げられます。無尽蔵の知識と勇気あふれる行動力とを備えた、まさに知行合一の人でした。 1982年、高校日本史教科書の検定において、「侵略」を「進出」に書き換えるよう文部省(当時)が圧力をかけた、と報道されたことがありました。その際、渡辺先生は誤報であることをいち早く指摘されました。 清朝最後の皇帝・溥儀(ふぎ)の家庭教師ジョンストンが著した『紫禁城の黄昏』の岩波文庫版では、反日的な内容になるように、意図的な脱落が行われていることも指摘されました。蔵書家の先生は、入手困難な原書を読んで正しい内容を知り、悪質な改竄を見破ったのです。そして自ら監修した完訳版(中山訳)を出版されました。渡部先生でなければなし得なかった偉業の一つです。 渡部先生の不滅の業績の数々について、戦後のマスコミ・言論界は、ただ黙殺することしかできませんでした。そのため先生は、正当に評価されているとはいえません。しかし後世、必ずや先生の真価が理解される日が来るはずです。私たちは、先生が示された道を見失ってはいけないと思います。 本稿は、公益財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2017年7月号)誌に掲載されているものです。 |