| 将棋界で、十五歳の藤井聡太四段が旋風を巻き起こしています。前人未到の二十九連勝というコンピュータのような異次元の強さだけでなく、温かみのある素晴らしい人間性を兼ね備えているところに魅力を感じます。その一方で、「ボナンザ」というコンピュータ将棋ソフトは、人工知能(AI)によって人知が及ばないレベルまで強くなっており、先日将棋の名人に完勝したことが話題となりました。今、私たちの生活に人工知能の足音がひたひたと近づき、すでに一部では実用化が進んでいます。 その一つが、街のどの場所に何人くらい夕クシーの利用客がいるのかを、膨大なデータをもとに予測するシステムです。これを活用すれば、もはやベテランドライバーの勘や経験は不要となり、コンピュータの指示通りに走るだけで乗客と出会うことができるそうです。株式取引においても、人工知能が株価の変動を予測し、人間の頭脳では到底追いつかないスピードで売買が行われるようになりました。 ただ、人工知能も万能というわけではありません。台風の進路予測を含む天気予報は的中率が上がっていて、今後さらに進化していくと思われます。しかし、地震や火山の噴火については、現在の科学では正確な予測が不可能であり、おそらく人工知能でも当分難しいでしょう。 さらに、何を「美しい」「正しい」と感じるか、そして「幸福」とは何かを判断できるのは、「心」を持つ私たち人間だけです。人工知能は、膨大なデータに基づいて「よりよい一つの答え」をはじき出してはくれますが、決して人間の「心」を持っているわけではありません。 私たちがこれから考えなければいけないことは、人間自身が考え、判断していくことの重要性です。人工知能は、うまく活用すれば素晴らしい未来を開いていってくれるでしょうが、使い方を間違えると大変なことになりかねません。ここに、機械を活用する私たち一人ひとりの人間性や道徳的判断力が問われることになるのです。その意味で、ますます人間教育を充実していかなければならない時代が到来しているといえます。 本稿は、公益財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2017年9月号)誌に掲載されているものです。 |