| 1978年、一人の日本人青年がアフリカに降り立ちました。大陸の西の端に位置する国、モーリタニア。隣国のセネガルは、先日のサッカー・ワールドカップの対戦国として日本国内でも知られるようになったものの、私たちにはなじみの薄い地域です。 フランスの植民地だったモーリタニアは、1960年に独立を果たしましたが、日本の約2.7倍という国土の大部分は砂漠であり、経済的な発展は望めない土地でした。そこへやって来たのが、日本の海外漁業協力財団から派遣された中村正明さんです。大西洋に面し、絶好の漁場に恵まれながら魚介類を食べる習慣がなかったモーリタニアの人たちに、中村さんは漁業の振興、特に日本の伝統的な「タコつぼ漁」を熱心に勧めて回ったのです。 欧米の一部の国々では「デビルフィッシュ(悪魔の魚)」とも呼ばれるように、見た目もグロテスクな謎の生き物。「そんなもの、獲ってどうするんだ」と言わんばかりだった現地の人たちも、日本をはじめ、他の国々には高値で売れるということが分かると、漁に本腰を入れ始めます。それはやがて「外貨を稼げる一大産業」に育ち、月収が100万円を超える人も現れました。中村さんはその間、モーリタニアに7年間も滞在し、現地の人たちへの指導を続けました。 タコ漁はその後、周辺の国にも普及しました。現在、日本に輸入されているタコの大部分は、モロッコ、モーリタニア、セネガルなどの西アフリカ産です。 モーリタニアの人たちのヒーロー的存在となった中村さんは、国家功労勲章を贈られています。 豊かな日本から遠くアフリカまで赴き、大変な苦労を重ねながらも現地の人たちのために尽くした一人の青年。日本のモラルの低下が毎日のように報じられる昨今、こうした行動に勇気づけられ、感動するのは私だけでしょうか。国際社会で立派に貢献した無名の青年男女は大勢います。彼らの生きざまこそが、次の世代へ伝えるべき「日本の心」だと思います。 本稿は、公益財団法人モラロジー研究所出版部発刊の『れいろう』(2018年09月号)誌に掲載されているものです。 |